ジーンズは誰のもの?―レディースデニムの始点と現在

冒頭:女性とデニムのはじまり:それは「自分のままでいられる」こと

かつて、ジーンズは女性のものではありませんでした。 生まれた背景、与えられた役割、許された範囲――それらすべてが「男性」のための服でした。

しかし現代、ジーンズは多くの女性たちの“日常服”として、ごく当たり前の存在になっています。 それはなぜなのでしょうか。また、それは単なるファッションの変化だったのでしょうか。

「自分らしくあるために、今日も私はジーンズを履く」。 そんな感覚がようやく社会に根づいてきた今だからこそ振り返っていきましょう。 ジーンズという一枚の布に込められた、女性たちの歴史と選択、そして自由について。

はじまりは男の作業着:ジーンズの誕生と女性の不在

リーバイスとワークウェアとしての出自(19世紀後半)

ジーンズの起源は、1850年代のアメリカ西部開拓時代にさかのぼります。 当初のジーンズは汚れても気にせず、酷使できる丈夫な仕事着として、完全に“男たちの服”でした。 快適さや見た目よりも、まずは耐久性と機能性が最優先。そこに女性の存在は想定されていなかったのです。

女性に許されなかった“ズボン”という選択肢

女性が公の場でズボンを履くことは、当時の社会通念や規範に真っ向から反することとみなされ、周囲から冷ややかな視線を向けられることが多かったのです。

たとえ作業に必要であっても、女性には「スカートで慎ましく」という価値観が強く求められていました。 ズボンを履く=“男のように振る舞う”という決めつけられたイメージが強く、「女性らしさがない」、「社会的反逆」といった レッテルを貼られたり、周囲から距離を置かれたりすることも珍しくありませんでした。

それは服装の話であると同時に、「どう生きるか」という生き方の選択肢すら制限されていたことを意味していたのです。

戦争が変えた、女性とズボンの関係

工場と農場で働く女性たちとデニムの出会い(1940年代)

第二次世界大戦が始まり、数えきれない男性たちが戦地へと送られていきました。 その空白を埋めるようにして、国内の工場や農場、インフラの現場には大量の女性たちが動員されることとなります。

彼女たちが初めて作業着として与えられたのが、ズボン、そしてジーンズでした。 それは、もはや「女らしさ」よりも作業効率と安全性が優先される状況下での、必然的な選択でした。

こうして多くの女性が、初めて日常の中で「パンツスタイル」を経験することになるのです。 ジーンズとの出会いは、「着てみたかったから」ではなく、「必要だったから」。 ですが、この出会いがのちにファッションとしてのレディースデニムを生む静かな布石となっていくのです。

戦後も残った偏見:「ジーンズ=だらしない」の時代

戦争が終わり、男性たちが復員し、女性が再び「家庭の中」に戻されていくと、ズボンやジーンズを着ることは次第に“異端”とみなされるようになりました。

家庭的であること、清潔感があること、上品であること。 そうした「女性らしさ」の理想像に照らして、ジーンズはあまりに粗野で乱れた印象を与えると考えられていたのです。

「ジーンズ=だらしない服」というイメージが定着していた時代には、女性がジーンズを履くことは、“身なりに無頓着”あるいは“行儀が悪い”といった評価を受けがちでした。

つまり、戦時中に許された“例外としてのズボン”は、平時には再び排除される対象となったのです。 こうしてジーンズはしばらくの間、「女性が選ぶにはふさわしくない服」として社会から距離を置かれる存在となっていきました。

映画と文化が変えたジーンズの意味

マリリン・モンローのジーンズ姿とその影響力(1950年代)

1954年、映画『帰らざる河』でマリリン・モンローが見せたジーンズ姿は、当時の女性たちに大きな衝撃を与えました。 無骨な作業着としてのイメージを一変させたブルージーンズは、“女性の魅力”という新たな価値を加えたのです。

彼女のジーンズ姿には、当時の保守的な価値観に対するささやかな反抗と、「女性が自分の意思で服を選ぶ」という主張としての美しさがありました。

メディアを通じて拡散されたその姿は、ファッションの流行という枠を超え、「ジーンズ=男性の服」という固定観念を揺るがす象徴的な出来事となりました。

マリリン・モンローの登場によって、ジーンズは初めて、“女性が堂々と着てもいい服”としての認識を持ち始めたのでした。

「着飾る」から「自分らしくいる」服へと変わった背景

かつて女性の服には、「どう見られるか」が強く求められていました。 美しさ、上品さ、清潔感、そして女らしさ。 それらの“正解”に近づくことが、「良い装い」とされてきたのです。

そのため、ジーンズは「女性の正装」から外れた存在でした。 しかし1970年代以降、社会進出を果たし、ライフスタイルの選択肢が広がるなかで、女性たちは少しずつ「他人の評価」ではなく「自分の快適さ」や「自然体」でいられることを優先しはじめました。

ジーンズは着飾ることを目的としない。 決まりすぎない、作り込みすぎない、だけど手を抜いていない。 その**“ちょうどよさ”が、自分らしくあるための服**として、多くの女性に受け入れられていったのです。

見せるための服から、自分のための服へ。 ジーンズはそうして、女性たちの内面の変化とともに、役割を変えていったのでした。

レディースデニムの開発とファッションアイテムとしての進化

男性用を履いていた時代から“レディース専用”設計へ

ジーンズが一般化しはじめた当初、女性たちは選択肢がないままメンズジーンズの小さいサイズを代用していました。 しかし男性と女性の身体は違う。ウエストとヒップのバランス、骨盤の傾斜、脚の形状……。 当然ながら、ただ小さくしただけのジーンズではフィット感にも快適さにも限界がありました。

それでも、「ジーンズは男の服」という暗黙の前提の中で、女性たちは違和感を抱えたままジーンズを履き続けていたのです。

やがて1980年代に入り、ファッション業界はようやく“女性の体に合うジーンズを作る”という視点を持ち始めます。 ヒップラインを意識したパターン設計、股上やウエスト位置の調整など、機能性とスタイルを両立させた“レディース専用設計”のジーンズが、ようやく市場に登場するようになったのです。

これは単なるサイズ展開ではなく、女性の存在がジーンズの中に「正規の居場所」を得た瞬間でもありました。

ストレッチ素材、ヒップライン、脚長効果:機能性と美の融合

1990年代から2000年代にかけて、レディースジーンズは“ただ履けるもの”から、“美しく、そして快適に履けるもの”へと進化していきました。

その転換点となったのが、ストレッチ素材の導入です。 デニムにポリウレタンなどの伸縮性素材を混紡することで、体の動きにフィットしながら、ラインを美しく見せることが可能になった。窮屈さは軽減され、動きやすさと見た目の両立が叶ったのです。

また、ウエスト位置や股上、後ろポケットの配置にも工夫が施され、ヒップを丸く、脚を長く見せるシルエットづくりが追求されていきました、 「美しく見せる」ことと「心地よく過ごす」ことをどちらも叶えるデニムが、レディースファッションのなかで確固たる地位を築いていったのです。

ジーンズはもはや、ただのカジュアルウェアではありません。 “身体と暮らしに寄り添う道具”であり、同時に“自分を最も自然に表現できる服”へと進化していったのです。

日本におけるレディースジーンズの原点:ベティスミスの挑戦

1970年、岡山県児島で生まれた日本初のレディースジーンズ専業ブランド

日本におけるレディースジーンズの歴史は、アメリカのそれに比べれば決して長くはありません。 しかし、その中でも重要な転換点として語られるのが、1970年に岡山県児島で誕生したブランド「ベティスミス」の存在です。

当時の日本では、ジーンズといえば輸入されたメンズ仕様が主流で、女性が履くにはサイズもシルエットも合わず、快適とは言いがたいものでした。 そんな中で「女性のためのジーンズをつくる」という明確な目的を掲げ、日本初のレディースジーンズ専業ブランドとしてスタートを切ったのがベティスミスでした。

この誕生は、日本における“女性のジーンズ文化”を根づかせる第一歩であり、ファッションを通じた女性の身体と個性へのリスペクトを形にした象徴的な出来事でもあったのです。

ベティスミスが示した「女性のためにつくる」という価値

ベティスミスが他ブランドと決定的に異なっていたのは、単にレディースサイズを展開するのではなく、「女性に最適化されたジーンズ」を最初から目指したことでした。

体型の違いに合わせた立体的なパターン設計、動きやすさを考慮した股上やヒップ周りの工夫、日常生活に寄り添う柔らかな風合い――それらはすべて、「女性が気持ちよく履けること」を起点に設計されていました。

これは当時としては革新的な姿勢でした。 というのも、それまでのジーンズは“男性が基準”であり、女性はその基準に「合わせる側」にすぎなかったからです。

ベティスミスはジーンズづくりにおいて、「性別を基準にするのではなく、身体と生き方を基準にする」という視点を提示しました。

この価値観は、後のレディースファッションやダイバーシティの文脈にもつながる、先進的なアプローチだったと言えるでしょう。

現在は、レディース専業ジーンズブランドの技術を活かし、シルエットの美しいメンズデニムやキッズデニムなど、あらゆる人がジーンズの良さを楽しめるブランドとなっています。

日本の縫製技術と“女性視点のジーンズ開発”の革新性

ベティスミスが躍進を遂げた背景には、岡山・児島が長年培ってきた高度な縫製技術と、日本ならではの「丁寧なものづくり」の文化がありました。

一本のジーンズにかかる縫いの精度、ミリ単位で調整されたシルエットライン、洗いや色落ちまで計算された仕上げ――そのすべてに、“日本製ならでは”の品質と誠実さが宿っています。

さらに注目すべきは、設計思想の根本にある“女性視点”の革新性。 それは単に「女性用に作る」ことではなく、着用時の快適さ、体型へのなじみ、立ち姿や座り姿の見え方まで。 今後を見据えた、女性のリアルな生活に根ざした設計と配慮がそこにはありました。

世界的に見ても、ここまでユーザー視点を徹底したジーンズ開発は希少でした。 ベティスミスの取り組みは、日本発のレディースジーンズブランドが、単なる後追いではなく、独自の進化と価値を世界に発信できることを証明した事例となったのです。

ABOUT

Betty Smith co.,ltd.
国産ジーンズ発祥の地、児島。弊社Betty Smithは国内初のレディースジーンズのメーカーとして1962年にこの地で誕生しました。Betty Smithでは、“日本のジーンズ文化の創造”を企業のミッションと定め、次の半世紀も積極的に新しい価値観を創出していきたいと考えています。

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